理想と現実の再確認
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業種
介護福祉施設
- 種別 レポート
トークの中から本当に得たい情報とは
- 介護施設における稼働率向上実務のポイントシリーズ第 41 回。
- 「聞く」ことにより相手の気づきを引き出すことの効果を理解したところで、その具体的な実践方法を考えていく。
前回の営業トーク例から得られる情報のポイントとは
前回、営業トークを聞きに回る形で進めていくひとつの会話例をお示しした。今回はそのような会話の進め方をどのような場面でも汎用的に使いこなしていけるように、できるだけロジカルにその仕組みを整理していくことを試みる。
前回の会話例をここで再掲することはスペースの関係上難しいが、簡単に整理をすれば、聞き手はシンプルな質問を投げかけることにより相手が自分で考え、自分の言葉で話ができるようになっていた。つまり質問された相手は「はい」「そうなんです」「あなたの言う通り」というように質問者の意図する方向に誘導される形で答えるのではなく、自分の意志で「●●という状況です」「●●と思うんです」というように答えを考えて導き出している。この点が営業トークにおいては非常に重要なポイントであり、もし後者のように会話が進んでいるようであれば、その後はどのような提案の機会に移っても話を聞き入れてもらいやすくなるはずである。
では、それはどのような理由からであると言えるのだろうか。
前回お伝えしたように、営業とは「マッチング」であり、今本当に必要なものを提案されるからこそ相手には興味を持って聞いてもらえる。では、その「今必要なもの」を知るためには何を聞く必要があるのか。それは「現状」と「理想」についてである。もう一歩踏み込んで言えば、自分自身の現状と理想を再確認し、その二つの間にギャップが生じていることに気づいてもらうことであると言える。この、現状と理想の間にあるギャップ、つまり現状から理想に進むために足りないものこそが、今必要としているものであり、私たちはこのギャップを認識してもらったうえで、それを縮めていくために必要なものはこれですよ、と提案するのである。
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現状と理想の間にあるギャップを知る現場での一例
もう少し具体的な例で考えてみる。
とあるケアマネジャーに、サ高住の紹介をしても、今持っているケースではデイサービスのニーズしかないと興味を持ってもらえなかった。しかしより深く話を聞いてみると、ご利用者は前頭側頭型認知症的な症状を発し、他者の持ち物を自分の懐に入れてしまうなどの度を越えた行動が目に余り、ついには通っていたデイサービスを辞めなければならなくなった。しかし、自宅では負担が大きいために、やはり代わりのデイサービスを探したいというのが現状だった。
そして、理想で言えばご利用者本人は当然悪気があって人のものを取ってしまうのではなく、認知症症状としてやむを得なく行っているということを考えれば、そのような衝動に左右されずに今まで通りに思い通りに生活してもらいたいという周囲の願いや、恐らく本人もそう思っているであろうことが確認された。それを会話の中で聞き取り、状況の整理ができた営業担当者は、いわば現状と理想のギャップを埋める手段がデイサービスに限られたものではないと気づくことができた。
このような会話の流れの中で、営業担当者と同様に、話をしたケアマネジャーの側も、自分自身が現状と理想を整理して話をする中で、そのギャップに気づくことができるようになっていた。そのため、営業担当者が、「実は、そのお悩みを解決する手段がありますが、興味がありますか?」と聞いた際、ケアマネジャー側は興味を持ち、それが物盗られの対策をよく練られたサ高住の話題であっても、最後まで聞いてもらえた、ということになった。初めはけんもほろろに断られてしまった話題を、同じ方に興味を持って聞いていただけた、という例である。これはつまり、自分自身で考え、気づき、興味を持つことがいかに重要であるかを表しているのである。
次回、さらにこちらの事例について掘り下げ、聞き中心の営業トークを分析していく。
レポートの執筆者
沼田 潤(ぬまた じゅん)
株式会社 日本経営 介護福祉コンサルタント
株式会社の運営する介護付き有料老人ホームにおいて介護職員から施設長までを経験後、北京に駐在し海外事業にも従事。2015年に日本経営に入社、主に介護施設における稼働率向上支援、介護サービスレベルの底上げ支援などを担当する。介護福祉士。
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